講義と講師

【安売り商品には理由がある】

前回、私は自説の披露や入試にでもしないようなことを覚えさせる講師をできるだけ避けることにしようとしたが、パソコン上のeラーニングの講義ではそれができなかったと述べた。

eラーニングの講義では講師を選ぶ選択の自由はないのである。通常、資格試験のeラーニングの講義を担当している講師は1人である。経営的には1人の講師に授業を行わせそれを配信したほうが企業としての利益率は高い。そこで無難な講師(アンケート上の上位講師)が実力派と称して画面上に登場するのである。進度は理解度の遅い受講生に合わされ、多方面からおしかりを受けぬ言葉を選び使い、受験偏重だと批判されないよう受験とは関係ないこともとりあげる(とりあげざるを得ない)。大学受験に置き換えれば衛星やインターネット回線を使った授業配信といったところであろうか。

そこには受験生を置き去りにした「無難な商品」しかない。そこにeラーニングしか受講できない受験生の悲運がある。私はeラーニング講義が安価なのはインターネットを使った配信システムによって価格が下がっているのではなく本来受験生のニーズにあっていないものを提供しているから安価な価格設定にならざるをえないのではないかと考えるようになっている。

eラーニングで同じ専門学校で講師を選べなければ他の専門学校の講師や情報、テキストを勘案して講師を選択しなければならない。これは大切な作業だが、現実的には講師の評判は大学受験予備校や旅行サイトの旅館のミシュランほど詳細ではない。これらは他人の評価でもある。また、同一の講師の授業を数回受講するのも困難である。

講師側も分かったもので、一度来たお客は逃がしたくないわけだから、初講日から自分の授業は受験に関係ないことも教えますとはそうは公言しない。

こうして教える側に都合のいい講義がいい講師によって毎年繰り返されていくのである。

いい講師が必ずしもいい講義を行っているわけではない。いい講義を行っているからといって必ずしもいい講師とも限らない。いい講師を捜してはいけない。自分に合いそうないい講義を選んでもいけない。そこには必ず自分の主観と企業の思惑が入り込んでしまう。

最も多くの生徒の成績を上げることができる合理的な講義とそれのみを追求している講師を探すのである。


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