劣化する記憶
【なぜ記憶の劣化が起きるのか】
暗記科目の学習は忘却との戦いである。
社会保険労務士の試験は科目が多いため、暗記する語句が多く一部の科目を除き語句の関連性も低い。暗記の得意な私でも今回の勉強は大変であった。
そして、今回この暗記科目の学習で私は大きな収穫を得ることができた。
記憶とは前頭葉で受けた短期記憶が反復されることにより大脳へと移行し長期に保存されることである。ゆえに、記憶を忘れるとは短期記憶が脳内で不必要だとキャンセルされることであると考えていた。また大脳へ移行した記憶は長期に保存されるものであるが、これとて一定の間隔で引き出さなければ薄れていくものであると。
しかし私は記憶が薄れ無くなっていく過程で他の記憶とまざりながら劣化していくことを体感した。記憶は薄れていく過程で他の記憶に置き換えられるなどして変容し、劣化していくのである。
この記憶の劣化こそが受験生の暗記科目におけるミスの誘因であると私は考えている。最初から間違って憶えているのではなく、劣化した記憶が何かの拍子で長期に保存されているのである。ではどうして劣化した記憶が薄れることなく長期に保存されてしまうのか。
それは受験生の「つもり、だろう」学習にある。
「憶えているつもり」「憶えているだろう」学習は、暗記学習の初期〜中期におきる学習傾向である。短期記憶のリハーサル(反復)を面倒くさがり、知識のアウトプットで定着を確認することなしに行われるこの学習傾向は正しく語句を定着させることはなく、かといってその語句の記憶を薄れ無くしていくものでもない最も中途半端な学習であり、記憶の劣化行為そのものなのである。劣化した記憶が定着しているのだから正しい解答を導けるはずがない。
こうした記憶劣化行為は以下の学習環境下で起こりやすい。
1、学習の拠り所になる教材がなく、いつまでも全体像がつかめない。
教材があってもまとまったものではなく(何十枚といったプリントの類)での学習もこの環境下に入る。こうした学習環境下では自分の都合のいいように記憶が繋がり、薄れる過程でさらに劣化するため学習時間に比べ得点の伸びが小さく劣等感に陥りやすい。暗記科目を途中で投げ出す生徒に最も多いパターンである。
2、学習の拠り所となるノートや教材が存在するが、その依存度が高い。
こうした学習環境下では知識を立体化(有機的な知識の関連づけ)をさせることが少ないため、最も記憶の劣化行為が起きやすく正誤といった形式問題が極端に苦手となる。拠り所となるノートや教材の使い方を十分に理解(作らせる側は指導)しておかないと得点に偏りがでる。現役の高校生に多いパターンである。
つまり暗記科目だからといってインプットの学習ばかりを行っているとその学習時間に比例して記憶の劣化が進んでしまうということである。憶えているのにその記憶が劣化する。劣化した記憶が正しい記憶と結びついてさらに劣化する。これでは合格点など望めるはずもない。
インプットの際に正しい知識を正しく関連させ、アウトプット(演習)でそれを何度も確認する。当たり前のことであるが、これこそが記憶の劣化を最小限にする学習法である。しかしその当たり前の学習法が実践できない。
何故であろうか。
それは結果を急いで求めすぎるあまりに正しい順序で暗記科目の学習を進めることができなくなっているからである。
そう、暗記には学習順序があるのである。