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東洋水産(マルちゃんの「麺づくり」)のCM

何気ない食卓。奥さん役の中川翔子が座っている。すると突然、往年の仮面ライダーのイントロが流れ、はたとテレビに目を向けると「♪迫る・・・食感」「♪ノンフライダ−」のだじゃれを交えた替え歌においおいとつっこみをいれたくなる。マルちゃんの「麺づくり」のCMである。

仮面ライダーは1971年に当時の小学生を中心に大ヒットした石ノ森章太郎原作の特撮テレビ番組である。仮面ライダーはショッカーという悪の組織に改造人間にされた本郷猛が組織から逃げ出し、ショッカーと戦うというストーリー。ショッカーが毎回繰り出す怪人にライダーキックやチョップなどで戦う仮面ライダーという設定に多くの子供たちが熱狂したテレビ番組であった。当時小学生であり、現在40歳代になる男性ならほとんどがこのテレビ番組の主題歌を今でも歌えるのである。

ならばこのCMは40歳代をターゲットにしたものかとうとそうではない。日本即席食品工業協会が公表している平成18年度の3ヶ月間のインスタントラーメンの年齢別摂取率のデータがある。この調査では12〜19歳が前回の91.9%から 99.0%に、20代は89.9%から94.1%、と若年層で増加しているものの、50代では同87.2%から78.8%に、60歳以上ともなると 73.2%から68.8%と高年齢層で減少しているのである。

最近のインスタントラーメンの摂取率は高齢層では減少しているのだ。さらに一人当たりのインスタントラーメンの消費数は昭和50年以降、30年間ほとんど増加していない。即席めん業界としては何とか一人あたりの消費量を増やしたいのであるが、若年層がいくら即席めんを消費しても急速に高齢化する日本では全体の消費量減少を食い止めることはできないのである。そこで、高齢層の即席めん摂取率を高めるため高齢者をターゲットにしたプロモーション(広告、販売促進)が必要になった。

では何故仮面ライダーなのか。

このCMは1971年に見ていた現在40歳代のノスタルジーに訴えるためのものではない。現在、40歳代の人間が、その子供の時になにかにつけて仮面ライダーグッズを買わされ、何度も目の前で仮面ライダーに変身したわが子を子育て過程で強烈な記憶として残している、まさに60歳後半の層に訴えかけているのである。中川翔子を使い、アニオタが喜ぶ構成にしてあるが、実はあの仮面ライダーの音楽そのもので自身の子育てをオーバーラップさせることのできる60歳代こそがこのCMの訴求する購入層なのだ。また、生めんに近いとされるノンフライ麺という言葉を、その世代に受けやすい「だじゃれ」というキーワードで広く周知させることにも成功している。商品の注意喚起を促すCMとしては非常に完成度の高いものといえる。

ではCMでは何故仮面ライダーそのものがでてこないのか。それは仮面ライダーが昆虫の「バッタ」の能力をもつ改造人間であるため、昆虫のバッタを想像させないようにするための配慮である。食べ物のCMであるがゆえの制約もあるのである。

東洋水産HPのCM紹介ページ
http://www.maruchan.co.jp/cm/index.html


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