愚者の目に映る競争倍率

競争倍率の真実

競争倍率とは学部の募集定員に対して志願者がどの程度いるかを数値化したものである。志願者数を募集定員で割れば誰でも計算できるし、大学のホームページや教育支援業のホームページにも掲載されている。当然、倍率が高ければ競争者が多いので合格難易度は高くなると言える。

また、実質競争倍率とは募集定員に対する実際の受験者数のことで、こちらは他大学に合格するなどして当日に欠席した受験生を引いているので倍率は低くなる。ハイレベルの大学なら6倍前後、それよりも低い大学でもなら3倍前後となる。

「ああ、6人に1人は入れるのね。」とか、「3人にひとりなら勝負になるかも。」と思っている受験生がいるとすれば、その年度の受験は絶望的となるだろう。

実質競争倍率は、多くの受験生にとって「公平な」倍率ではない。なぜなら募集定員のうち6割以上がすでに「その大学に余裕で合格できる学力上位者」によって占められているからである。学力上位者とは、高校生の早い時期から(中高一貫教育校では中学生の時から)受験を見据えたカリキュラムによって教育を受け、体系的な学力と応用力を身につけている受験生である。

つまり、どのような条件下でも絶対に失敗することがない受験生である。このような受験生には1年程度受験勉強をした受験生は総点で絶対に上回ることができない。時間をかけて経験値として培った学力(融合・洗練された知識と対応力)に対抗できる学力を初学者は持ち得ないからである。運動部や吹奏楽における経験者とそうでない者との違いと言えばわかるだろう。

募集定員の6割がすでに学力上位者によって占められているとすると倍率はどのようなるであろうか。例えば募集定員100人の大学の学部で、600人の応募者がいれば倍率は6倍であるが募集定員100人のうちあなたを含まない60人がすでに合格確実の学力上位者であるならば、本当の意味での「実質競争倍率」は、残った40人の定員と受験生540人の競争となるので13.5倍となる。現在の受験が20年前の受験戦争と呼ばれた時期よりも合格しづらくなっているのはそのためである。

昔もそうだったのではないかという反論もあるだろうが、それは違う。20年前の受験生の数は現在の1.3倍であったが、募集定員の2倍近くまで合格者を出すことが容認されていたからだ。受験生も多かったが、定員数も多かったのである。今は募集定員厳格化によって定員以上の合格者を出すことが絶対にできない。そればかりか、様々な選抜形態の一つとして学力試験を課してることからそもそも募集定員が少なくなっている。

これらのことはハイレベルの大学だけでおこっていることではない。1年間懸命に勉強して学力をあげた受験生が成果をあげることなく下位の大学へとトコロテンのように押し出されていくのだ。近年、最初から下位の大学を志望している受験生が合格できない状況が続いているのはこのためである。結果、大学偏差値も上昇し東京でFランクの大学が無くなったのであるが、それはいったい「誰得」なのであろうか。

試験は客観テストで、何年前から勉強しようが一定の出題範囲とレベルに限定されているのだから合格する可能性は受験生全員に平等にあると思いたいであろうが、少し考えてみるといい。初心者と経験者の差はどこで出るのか。経験者は常に高いパフォーマンスを維持できるが初学者には安定性がない。私大文系であっても試験科目は3科目ある。選択科目であっても高得点がでやすい政経や数学で受験する者もいる。標準偏差による得点調整があると大学が主張しても、日本史で65点しか取れない受験生のために数学で満点をとった受験生の点数が65点に下がることはない。得点調整とはあなたの学力を基準として成績上位者の得点が大幅に下げられる不公平な仕組みではない。得点調整があろうがなかろうか学力上位者は常に合格点を上回るスコアをたたき出してくるのだ。彼らに死角などない。

さて、本当の意味での競争倍率がどのようなものか分かっっていただけたであろうか。その上で受験生に申し上げたい。

それでもあなたは合格できると。

同じレベルのライバルが何人いようが、あなたが必ず不合格になるわけではない。多くの受験生が同じ時期に学習をスタートさせ、同じ科目の成績が伸び悩んでいるのである。

しかし、多くの受験生は学力上位者がとった後の、残された椅子をめぐる成績中位者間の高得点ゲームとなっている状況を理解していない。日本史はそこまで深くやらなくても点数が取れると、現在の入試状況を俯瞰・分析できない指導者に教えられている受験生も多い。勝機はそこにある。

高得点ゲームの勝利条件はミスを出さないことにある。日本史なら記述や選択問題でのミスを限りなくゼロに近づけることである。得点力も必要である。確実に点数を取るためには網羅的な学習が欠かせない。メジャーな語句に関連するマイナー情報にも注意が必要だ。また、語句の内容や時期を理解しておけば、近年出題率が増加している正誤問題の正答率をあげることができる。 残された椅子(定員)を確実に獲得するには、「これ以上やる必要ない」「ここまでしかやらなくていい」と言う考えは捨てることである。向上心をもち、限られた時間を効率かつ効果的な学習に費やし、受験直前まで学力を伸ばし続けるべきだ。

残された椅子を競い合うあなたのライバルは、今日もあなた以上の量・質ふまえた受験勉強を効率よく行っている。ではあなたは何をすべきだろうか。

日本史講師 土屋文明