合格者平均点という「トラップ」

大学がホームページで掲載している入試情報の1つに受験科目合計や科目ごとの合格者平均点というものがある。比較できるよう受験者平均点まで掲載してくれている大学があるくらいだから、合格者情報は受験生の関心事の上位にランクするものなのだろう。

しかし、合格者平均点はあなたの合格の指標となる絶対的な点数ではない。

溺れるものが掴む藁どころか、掴んだら溺れる罠である。

平均値はビジネスの世界でも一般に使われている。ひとつの数値で全体の現象を把握するときには役立つものである。しかし、全体の数値を足してその個数で割る平均値は、平均値の後ろにいる個々の受験生の動向(点数のばらつき)が見えないという点において受験生の指標とはなりえない。入試科目の平均点は平均値を山の頂点とした正規分布が左右対称になっていないからである。

日本史の合格者平均点が70点だとしよう。この時、合格した10人の受験生が得点した人数と点数の分布は決して70点10人ではない。80点5人、60点5人の可能性はあるし、教科合計(※300点満点)の合格基準点が210点なら日本史を除く2教科が満点なら計算上は10点で合格している受験生の点数を含めた平均点となっている可能性だってある。最後の例の場合では、2人が10点で8人が85点でも合格者平均点は70点となる。あなたが受験する大学の赤本を見てほしい。どんなに低い偏差値で、日本史の問題が易しい大学でも常に85%の正答率を出し続けるための受験勉強はあなたが想像している以上に過酷である。

つまり、点数のばらつきを考慮しない「ただの平均値」はあなたに全く役に立たないばかりか、その点数を基準とした情報内容で学習すると必ず不合格となるトラップであるといえる。

合格者(将来合格者に名を連ねようとするあなた)がその平均値の前後にどのくらい分布しているのかがわからなければ、過去問を検証して自身の合格のための設問解答率(得点率)を出すことができない。正確な得点率がだせなければ、どの程度の語句を暗記し形式問題対策をすればいいのかの振れ幅が大きくなるのだから安全マージンを広くとった学習をするのは「受験常識」である。 それにもかかわらず、大学の偏差値が低いからというだけで情報量が大きく削られ、形式対策がおろそかにされている。

太平洋戦争末期の学徒出陣では、多くの学生が戦場へと向かった。実戦経験や武器・食料も十分でない状況下で戦死した学生も多かっただろうが、その人数はいまだ不明である。

受験は戦争ではない。誰も死ぬことはない。

だが、あなたの知性と教養は確実に大人の手で殺され続けている。

もちろん合格もない。

不合格に茫然とするあなたに薄ら笑いを浮かべた大人が近寄り優しく声をかける。

「それだけでは足りないってあなただって薄々わかってたでしょう」
「またのご利用をお待ちしております」

『わだつみのこえ』は今年も多くの受験生にはとどかない。

 

日本史講師 土屋文明