合格最低点という「藁」にすがる受験生

「溺れるものは藁をも掴む」ということわざを知らない受験生はいない。
しかし、受験の時期全般を通じて、多くの受験生は合格最低点という藁にすがって適切な学習を怠り不合格になる。

なぜだろうか。

インターネットで個々の大学の入試情報を集めてみると、比較的偏差値の低い大学では合格最低点だけを発表している。受験生の問い合わせで常に上位を占めるのは「何点とれば大学に合格できるか」であるのだから受験生のニーズにもかなっている。「合格到達の最低ライン」が目の前にあれば、自分にも合格の可能性があると考える受験生が多いのだ。

しかし、合格最低点は決して受験生の希望の光などではない。

すがれども絶対に掴めない藁である。

2016年から文科省による「私立大学の入学定員管理の厳格化」の政策によって、私立大学の入学定員は段階的に定員の枠に収まるように指導されている。これに反すると助成金が交付されないという強行な政策である。助成金は私大の収入の1割以上を占めるので大学側もこの政策に従わざるをえない。そして2020年からは入学定員以上の学生をとることはできなくなった。このことから昨今大学受験が難化したのは、大学側が募集定員以上の受験生がとれなくなり合格最低点が「上がった」からだと容易に推測できる。

一方、入学辞退者も一定数存在する。そこで、入学辞退者による減少を勘案して合格人数を調整するためにあるのが「合格最低点」である。合格最低点は、大学側が定員の帳尻を合わせるだけの「調整弁」に過ぎないのである。

もうおわかりだろう。

入学定員が固定されているのだから、多くの受験生が合格最低点を目指して勉強しても、そこに到達する受験生が多ければ、合格最低点は「上がる」のである。ゆえに合格最低点を獲得してもその大学には合格できない。

多くの受験生は今の学習を根本的に見直す必要がある。合格最低点が「幻」とわかった以上、不自然に多くの情報量が単に偏差値が低い大学だからという理由で削られていれば危険な兆候である。

しかし、その危険な兆候を認識しても受験生は次の藁を掴もうとして不合格となるだろう。

合格者平均点という藁を。

 

日本史講師 土屋文明